薬剤性せん妄(その1)

《はじめに》

認知低下はせん妄発症と関連しますが、同一の事象ではありません。私は、「認知低下」→「閾値下せん妄状態」→「せん妄発症」と、段階的に考えています。

このまとめでは、「薬剤と認知低下の関連性」についての情報はできるだけ割愛し、主として「薬剤とせん妄発症の関連性」または「薬剤とせん妄リスクの関連性」についての情報を記載しました。

また、薬剤性せん妄に関するデータの多くは、周術期せん妄の研究から得られたものであるといわれますが Vasilevskisら, 2012, PMID: 23040281、このまとめでは、周術期せん妄だけが対象の文献は割愛しました。

 

【がん患者のせん妄の総説】

☆ がん情報サイト PDQ®日本語版 せん妄
・せん妄の病因となりうる薬剤は以下の通り。
* 一般的な化学療法薬剤の大半
* インターロイキンおよびインターフェロン
* グルココルチコイド
* オピオイド鎮痛薬
経口で(※ 原著では「皮下注で」と記載)1日90mgを超えるモルヒネまたはモルヒネに相当するオピオイドを使用している患者は、せん妄を来すリスクが高い。Gaudreauら, 2007, PMID: 17469164
* 抗うつ薬
* ベンゾジアゼピン類
* 抗ヒスタミン薬
* その他の鎮静剤などの向精神薬

☆ 緩和ケア領域のせん妄 Bushら, 2017, PMID: 28864877
・せん妄の病因となりうる薬剤は以下の通り。
*ベンゾジアゼピン
* 抗うつ薬
* 抗精神病薬
* 抗けいれん薬
* ステロイド
* キノロン系抗菌薬
* 抗コリン薬?(抗コリン薬のせん妄促進作用については相反するエビデンスがある)

☆ ベンゾジアゼピンの使用について(ホスピス医の考え、臨床的推奨、文献的レビュー)Kamellら, 2016, pubmed: 27002463
・ベンゾジアゼピンは、特にせん妄リスクがある患者においてリスクと弊害が示されている。

☆ 緩和ケア領域のせん妄 Bushら, 2014, pubmed: 24480529
・せん妄によく関与する薬剤には、ベンゾジアゼピン、ステロイド、抗コリン薬、オピオイド、向精神薬がある。Moritaら, 2001, pubmed: 11738162Bushら, 2009, pubmed: 19808772Jacksonら, 2008, pubmed: 18372482Gaudreauら, 2005, pubmed: 16170179Agarら, 2008, pubmed: 18525328

☆ がん患者の薬剤性せん妄 Caraceni, 2013, PMID: 26217132
・オピオイド
1日90mg以上の経口(※ 原著では「皮下注」)モルヒネはせん妄のリスクを上昇させる。Gaudreauら, 2005, pubmed: 16170179
・ベンゾジアゼピン
・高用量の抗コリン薬(例:アトロピン5mg以上やスコポラミン1mgはせん妄を扇動する ⇔ スコポラミン0.3-0.8mgでは眠気を生じさせる)。抗コリン薬は用量依存的にせん妄の原因となる。Itil, 1968, pubmed: 5699588
・高用量のステロイド(例:1日96mgのデキサメタゾン)Breitbart, 1993。ステロイドの突然の中止。
・SSRIなど(セロトニン症候群)

☆ がん患者のせん妄 Bushら, 2009, pubmed: 19808772
・オピオイド、ステロイド、ベンゾジアゼピン、抗コリン薬はせん妄に関与しやすい。Lawlorら, 2000, pubmed: 10737278Moritaら, 2001, pubmed: 11738162Agarら, 2008, pubmed: 18525328
・Gaudreauらによると、皮下注モルヒネ換算>90mg/日、経口ロラゼパム換算>2mg/日、経口デキサメタゾン換算>15mg/日ではせん妄のリスクが2倍以上になったが、抗コリン薬とせん妄の関連は認められなかった。Gaudreauら, 2005, pubmed: 16170179

 

【各薬剤とがん患者のせん妄】

☆ オピオイド Gaudreauら, 2007, PMID: 17469164
・血液-腫瘍内科または内科に入院中したがん患者のうち、せん妄を発症した114例が対象。観察10日目の時点で17例にせん妄あり。Nu-DESCスコアを用いてせん妄リスクを評価。平均年齢は63歳。観察期間は平均16日、最長60日。
・皮下注モルヒネ換算で1日90mgを超えるオピオイドを使用している患者はせん妄の発症頻度とリスクが有意に高かった。

☆ オピオイド、ベンゾジアゼピン、ステロイド、抗コリン薬 Gaudreauら, 2005, pubmed: 16170179
・血液-腫瘍内科または内科に入院したがん患者261例が対象で、そのうち43例がせん妄を発症。Nu-DESCスコアを用いてせん妄リスクを評価。平均年齢は59.6歳。観察期間は平均8.6日、最長4週。
・ベンゾジアゼピン、ステロイド、オピオイドはせん妄リスクを増加させた。抗コリン薬はせん妄リスクと関連しなかった。
* ベンゾジアゼピン:経口ロラゼパム換算>2mg/日(ハザード比:2.04[1.05-3.97])
*ステロイド:経口デキサメタゾン換算>15mg/日(ハザード比:2.67[1.18-6.03])
*オピオイド:皮下注モルヒネ換算>90mg/日(ハザード比:2.12[1.09-4.13])
*抗コリン薬 (ハザード比: 1.38[0.73-2.60])

 

【非がん患者のせん妄(周術期を除く)】

☆ 重篤な疾患や進行した疾患のせん妄 Irwinら, 2013, pubmed: 23480299
ベンゾジアゼピン、オピオイド、ステロイド、抗コリン薬は高い頻度でせん妄の原因となりうる。Lawlorら, 2000, pubmed: 10737278Gaudreauら, 2007, PMID: 17469164Gaudreauら, 2005, pubmed: 16170179

☆ 米国老年医学会のBeers基準 The American Geriatrics Society 2015 Beers Criteria Update Expert Panel, 2015, pubmed: 26446832
・せん妄への作用のため、潜在的に不適切な薬剤
*抗コリン薬
*抗精神病薬
*ベンゾジアゼピン
*クロルプロマジン
*ステロイド
*H2受容体拮抗薬
*メペリジン
*鎮静睡眠薬

☆ 認知低下がある患者に対する不適切な治療 Robles Bayónら, 2014, pubmed: 23062764
・ベンゾジアゼピン、オピオイドはせん妄の発症を促進しうる。
・抗コリン薬は認知低下を誘発しうる。
・ステロイド認知症、ステロイド精神病に注意。
・ポリファーマシーはせん妄のリスクを増やす。

☆ 急性期病棟でのせん妄のリスク因子(11個の研究のレビュー)Ahmedら, 2014, pubmed: 24610863
・対象は55歳以上、急性期内科/老年内科病棟または救急病棟の入院患者(ICUを除く)。
・ベンゾジアゼピンを一定量以上使用することはせん妄リスクを上昇させた。
・ポリファーマシーについての研究は6個あり、そのうち4個の研究でリスク因子であった。

☆ せん妄発症と関連する薬剤(14個の研究のレビュー)Carpenter, 2012, pubmed: 21839541. Which medications are associated with incident delirium?
・内科または外科の患者において、抗精神病薬はせん妄リスクの増加と関連していた(オッズ比=4.5[1.8-10.5]、1個の中等度の質の研究)。
・外科の患者において、メペリジンは他の麻薬よりもせん妄と関連していたが(オッズ比=2.7[1.3-5.5]、1個の中等度の質の研究)、オキシコドンはせん妄と関連していなかった(オッズ比=0.7[0.3-1.6]、1個の中等度の質の研究)。
・整形外科の術後の患者において、非経口モルヒネ換算で1日10mg未満の患者は1日10-30mgの患者よりもせん妄リスクが高かった(相対危険度は、前者=25.2[1.3-493.3]、後者=4.4[0.3-68.6]、1個の中等度の質の研究)。
・抗ヒスタミン薬、H2拮抗薬、ステロイド、NSAIDs、ジゴキシン、三環系抗うつ薬、オキシブチニン、抗パーキンソン病薬のせん妄リスクについては、十分なエビデンスがなかった。

☆ せん妄リスクがある人において避けるべき薬剤(14個の研究のレビュー)Clegg, 2011, pubmed: 21068014
・以下の薬剤はせん妄リスクを増やす。
*オピオイド(オッズ比=2.5[1.2-5.2]、7個の研究)
ただし、重度の痛みはせん妄を引き起こしうる Morrisonら, 2003, pubmed: 12560416
*ベンゾジアゼピン(オッズ比=3.0[1.3-6.8]、7個の研究)
*ジヒドロピリジン(ニフェジピン、心臓手術)(オッズ比=2.4[1.0-5.8]、1個の研究)
・以下の薬剤はせん妄リスクを増やすかもしれない
*抗ヒスタミン薬(オッズ比=1.8[0.7-4.5]、2個の研究)
・以下の薬剤はせん妄リスクを増やさない
*抗精神病薬(オッズ比=0.9[0.6-1.3]、4個の研究)
*ジゴキシン(オッズ比=0.5[0.3-0.9]、1個の研究)
・以下の薬剤のせん妄リスクは不明
*H2拮抗薬(1個の研究)
*三環系抗うつ薬(1個の研究)
*抗パーキンソン病薬(1個の研究)
*ステロイド(1個の研究)
*NSAIDs(1個の研究)
*抗ムスカリン薬(1個の研究)

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